生成AI時代のTableauユーザーの仕事を考える - 2025年8月版
- Yoshitaka Arakawa
- 8月16日
- 読了時間: 12分
公開日: 2025/08/17
最終更新: 2025/08/17
参考資料
- Vibe Analytics: When Everyone Becomes an Analyst (And Analysts Become Everything Else)
- How AI will Disrupt BI As We Know It
Tableau MCP使ってみましょう記事を書いてから、ありがたいことにTableau MCPを実際に体験してみる方が増えてきたように思います。
感想や未来への想像はそれぞれあると思いますが、重要なことは、それを体験したことだと信じています。生成AI時代のTableau利用や、生成AIを使ったデータ分析(いわゆるVibe Analytics)の入り口を体験したことは、今後のTableauユーザーとしての動き方を考える上で重要な影響を与えると思います。知っていることと体験したことは全く異なるので。
そしてMCPとは何か?Tableau MCPがTableauを使った分析活動をどのように変えそうか?という記事も書きました。この記事では色々と未来予想を書いたわけですが、要は「分析作業やデータ作業ではなく、分析体験ファシリテーターのような方向を目指すのはどうでしょうか」という提案でした。
最適かつ最強のデータ利用体験を提供するために、AIでやるべきこととBIでやるべきことを見極める、またはデータスキルを活かしてAIが力を発揮するためのデータ整備に取り組むのはどうか、というお話でした。
上記の記事は概念的な話を多かったので、今回の記事ではTableauユーザーの仕事をある程度は具体的に分解しながら、何が生成AIを活用できそうか、何を人は注力すると良さそうか、について書いてみます。
ちなみにこの記事を書くモチベーションは、ここ数週間のVibe Analyticsの実践から生まれています。データと問いを与えたら洞察がすぐに得られる体験はとても楽しいので、ぜひ生成AIと一緒にデータ分析をしてみて下さい。 データ分析体験自体も楽しいですが、その中で得られる「どのように指示文(プロンプト)を出したら生成AIは上手に分析してくれるのか」という体験や知見にも、大きな価値があると思います。
Vibe Analyticsとは?(簡単に)
「Vibe Analytics(バイブアナリティクス)」は、大規模言語モデル(LLMs)や生成AIツールを活用した、データ分析への対話的かつ即興的なアプローチです。自然言語を使ってAIと協調的にデータを探索し、そして洞察を得るデータ分析手法だと理解しています。
具体例は本記事にも出てきますので、一旦は上記でご理解ください。
Tableauユーザーの仕事で生成AIが役立ちそうな領域
TableauおなじみのCycle of Visual Analyticsを念頭に、まずはTableauユーザー(Creatorを想定)の仕事を書き出してみます。さらに細分化させることも出来ると思いますが、まずは思いつく範囲で書いてみます。 (いや実際にはもう少し思いついていますが、具体例が多くても本筋に影響ないので、適当な量で切っています)

ここで書き出した理由は「どの仕事を生成AIに任せられるか/任せた方が良さそうか」を考えるためでした。似た話をTableau Pulseに関する記事でも書きましたが、ここでは内容をより一般化させています。
「TableauやBIにも生成AIを活用する」という話をするためには、まずは現在の業務整理から始め、どこに生成AIを適用させるかを考える必要があるはずです。
そして、試しに生成AIを活用できそうな仕事をラベル付けしてみました。
生成AIメインにできるか、まだ人間メインになりそうか、協力路線が良さそうかの3つに分類しました。 生成AIおよびVibe Analytics実践をもとにした経験的整理であることをご容赦ください。

これは個人の経験に基づいており、そして執筆時点での感想です。 生成AIが入ってきそう、または生成AIを取り入れられそうな領域は、想像よりも多くないでしょうか?
この辺りの話をするために、一つ具体例を出してみます。
以下はGoogle Gemini 2.5 Proと一緒にSample Superstore 2025.2版を分析してみたときの記録です。つまりVibe Analyticsの実践記録のひとつです。
会話の中で、いくつかのレポートをGeminiに作成してもらいました。
その中のひとつを以下に掲載します。



この会話は「Superstoreの新米アナリストが月次レポートを作る」というロールプレイとして行いました。この会話の中で生成AI(Gemini)は...
問いを立てることをサポート
意思決定につながる分析の提案
分析軸の提案
を最初に行い、その後は会話の中でレポートを作成することを通して...
適切なグラフを選択し、実際にビューを作成
必要な集計ロジック等を作成、必要に応じて新規指標の作成をサポ―ト
し、実際に...
原因と仮説を整理
月次レポートを作成
取るべきアクションの提案
を行いました。
ここで、この体験は単なる「データと会話する」ことを超えていたことを強調します。「データと会話する」というのは、例えばTableau Pulseで行うような、自然言語で集計値を出してもらうような体験です。数字は出てきますが、それが妥当な質問を前提にしているかどうかは全て人間に任せられています。
単なるデータとの対話にとどまらず、「どのような問いを立てるべきか」を共に考えるところから始まり、その問いを深め、最終的には有意義でアクションに直結する洞察を導くまでを一貫して支援してくれました。
これは単なる自動化ではなく、人間の分析プロセスを生成AIが伴走し、問いの質とアウトプットの価値を高めてくれる実例だと言えます。
ちなみに、全体数字から派生した問い ー 成績の悪かったSouth地域の改善プランに関する分析も行うことができました。データ分析もそうですが、文章やストーリー作成はやはり生成AIは得意な印象がありますね。
このように、生成AIは問いの立て方から洞察の提示までを伴走し、分析プロセスを支援・強化できます。
人間やBIがまだ必要そうな領域
一方、人間の仕事として求められる役割もまだまだ残っているように思います。 例えば「何のために分析をしたいのか」の意思決定、つまり分析の目的を明確化することです。生成AIは「これ分析したらどう?」という提案は行えますが、実際に何を分析するべきなのかの最終判断は人間が行った方が良いかなと思います。
技術的には「勝手に分析しておいて」と、AIにデータを渡して分析タスクを自動実行させることは可能だとは思いますが...例えば新米アナリストにデータだけ渡し「分析しておいて」という指示を出すことは合理的でしょうか?
分析において一番重要な「何を明らかにするべきか」「何が問いか」の部分を判断するためには、様々な背景情報や論理があるはずです。その部分を生成AI側にコンテキストとして渡すことも不可能ではないと思いますが、方向性を人間が与え、人間が最終判断する方が現実的に思えます(少なくとも今のところは)。
また、生成AIが出力した数値や洞察をそのまま利用することが危険な場合もあります。つまり、不正確な情報が出力されていることに気付かずに意思決定や行動をする危険性です。
例えば先に出てきた地域別パフォーマンスのレポートについて、Tableauで実際に集計して数字を確認してみましょう。


簡単な集計で確かめられるので、興味ある方はSample Superstore 2025.2 (US) データを使用して、ぜひご自身でも確認してみて下さい。
ご覧のように、地域別数字という簡単な集計に見える数値でも生成AIは間違える可能性があるようです。
これはデータをGemini 2.5 Proにそのままアップロードして、具体的な集計方法を指示することなく出力してもらった結果でした。例えば集計方法をSQL等で事前に考えさせるなどの工夫で解決可能かもしれませんが、いずれにしても出力結果の妥当性は人間が確認する必要がありそうです。
余談:Tableau MCP経由ならデータハルシネーションの可能性は低そう
ちなみに上記は「生成AIにデータを直接与えた」場合でした。Tableau MCPでは「データを取得するためのVizQL作成」から始まるため、
集計方法が明示的でありブラックボックス化しない(少なくとも解釈可能)
クエリが正しい限りは最終的な出力データも正しい(はず)
という利点があるように思いました。これは経験からの感想です。

最後に「人間が生成AIの出力結果の妥当性を判断するためには、人間がデータや正しい集計値に触れていないといけない」ことに触れます。
例えば先ほどのTableauでの地域別数字の検算について...自分はTableauを使って簡単に集計値を確認できる技術と環境がありましたが、必ずしも即座に検算が可能ではない人たちにとって、この状況はどうでしょうか?
生成AIの分析結果を吟味するためには、人間側に材料が必要です。人間がデータに触れられる、データを確認できる環境が必要です。
それは究極的にはSQL的な手段でも良いかもしれませんが、必要な数値をいつでもアクセス可能にすることは、BIの得意領域であったはずです。
つまり、こちらの記事の5章で言われている「ガードレール」をどれだけ整備できるかが重要になりそうですし、ここにBI人材の価値が残りそうです。
そしてこの「ガードレール」はVibe Analyticsから派生して増設していく必要もありそうです。生成AIとの対話も通して「これも定点観測する指標としたい」というニーズが発生してくる、そんな世界を予想しています。
これは新しい話でもなく「ユーザーが分析を通して新規指標を思いつく→ダッシュボードに反映する必要が生じる」という話は往々にしてあるように思います。逆にダッシュボードが新たな分析を喚起することもありますよね。このサイクルがVibe Analyticsによって高速になった、ただそれだけの話だと思います。
データ文化推進者としてのTableauユーザーの仕事
ここまでは「個人の分析活動が生成AIによってどう変わりそうか」を主なテーマとして書きました。
ここからは「Vibe Analyticsを通してデータ文化を進化させるために、データ文化推進者としてのTableauユーザーは何ができそうか」について考えてみます。つまり、焦点が「個人の仕事を変えること」から「他者のデータ利用体験を変えること」に移ります。
先ほどの「ガードレール」を整理することも、この内容の一環ですよね。安心してVibe Analyticsをしてもらうために、必要な指標を、適切な表現を用いながら、必要な人にアクセス可能な形にする。ガードレールの存在を認知してもらう。
そのような活動が重要になりそうです。
生成AIの力を借りられそうな部分はどうでしょうか?データがあれば、全ての人が適切に生成AIを使えるでしょうか?分析手法や分析のための思考は、全ての人やAIにとって共通のスキルセットでしょうか?
これも先ほどのように、新米アナリストにデータだけ渡すことをイメージしてください。データだけでは分析できず、適切な背景情報や思考方法の教育が必要ですよね。生成AIも同様です。
つまり、データ分析の実践者として、良いVibe Analyticsのために、生成AI自体に情報を与えてあげる方法を伝える、または事前情報が与えられた生成AIを展開するような動き方が求められると思います。
前者についてはVibe Analyticsのためのプロンプト作成と共有、後者は例えばChatGPTのCustom GPTs、GeminiのGems、ClaudeのProjectsなど、保存・再利用できるAIエージェントの作成と共有が挙げられます。
BIダッシュボードをデータ観点でのガードレールと呼ぶならば、これは生成AI利用時のガードレールや道路を整備する感じですかね。
ひとつ例を挙げると、以下のようなプロンプトを事前定義したCustom GPTを作成し共有する、などですね。データ分析体験をサポートする生成AIを用意するイメージです。
<role>
あなたは経験豊富なデータ分析のMentorです。最も重要なのは、データ分析ではなくユーザーとの対話です。データがあっても、その分析が「なぜ必要なのか」「何を解決するのか」を完全に理解するまでは、絶対に分析を開始しないでください。ユーザーの課題と文脈を深く理解し、共に価値のある洞察を発見する会話パートナーとして振る舞ってください。
</role>
<fundamental_rules>
<turn_control>
一度の発言では一つのことだけを行い、必ずユーザーの反応を待つ。質問をしたら絶対にそれ以上続けない。
</turn_control>
<no_premature_analysis>
目的と文脈が明確になるまでは、データの確認や分析を一切行わない。データがあっても無視する。
</no_premature_analysis>
<conversation_priority>
技術的な分析よりも、ユーザーとの対話と理解を最優先する。
</conversation_priority>
</fundamental_rules>
...
そして当然ながら、生成AIが適切なデータを使用できるようにする準備も重要です。データ加工だけでなく、不要なデータを削除して生成AIが迷わないようにすることも重要です(この辺りはTableau MCPを念頭にしつつ)。
同時にデータガバナンスなどの観点も一層求められそうですね。

上記のガードレール作業は華やかなものでは無いかもしれません。
またデータ分析、もう少し言えば探索的データ分析は、BIから生成AIに移行していくだろうと思います。つまりTableauが得意としていた視覚的なデータ分析やインタラクティブ性は、今後どこまで必要とされるのか...自分は正直わかりません。
ただし、これがTableauとTableauユーザーにとって悲観的な話だとは思っていません。もちろんデータを可視化する技術にのみ焦点を当てた方、探索的データ分析の技術にのみ焦点を当てた方には気持ちのいい話ではないかもしれませんが...
データ分析やデータ活用を体現し、また周囲にその価値を伝え広めてきたTableauユーザーにとっては、一番面倒くさい「分析作業」の部分が多くの方にとって簡単かつ効果的になる世界は、楽しく思えるのではないでしょうか。
データ利活用がもっと広く、そして深くなりそうな世界の到来を予想させるからです。
学んできたTableauの高度な技術は、そのうち使わなくなるかもしれない。
ただし、その技術を必要とした背景や、その技術で解決してきた課題に関する経験や思考は、生成AIエージェントに応用させることができる。そして広範囲のユーザーに貢献・還元することができる。
そういう世界が来るのかなと思っています。これは結局「データを通して世界を理解し、それを人に正しく伝える努力を怠らず、人の心を動かし、行動を促す」ことの延長だと思います。
最後に
最近、仕事での口癖が「しばらくは平和に生きられませんね」になっています。
これは別に危機感を煽りたい訳ではなく、単純に「生成AIを前提にした業務設計をもっと考えないといけないし、どこに応用できそうか知見と体験を増やさないといけないし、今まで通りの仕事ばかりやってられないですね」という、インプット増やした方が良さそうですね、的なニュアンスです。
Tableau x 生成AI、データ分析 x 生成AIを最近まじめに考えているのは、自分が「TableauやBIツールを人に教えるべきか」という問いに対する答えを、具体的に作れていなかったからですね。これから本当に必要なのか分からない状態で、必要に見せかけて伝え広めることは、ちょっと気持ちよくなれないので。
この記事の執筆とVibe Analyticsの実践を通して、自分は「ガードレール」的な部分にTableauやBIの価値を再認識しました。ただし「ガードレール」だけだと面白味に欠けそうなので(とても実務的で良いのですが、入門者の訴求に使いにくそう)、もう少し言えば「Vibe Analyticsの一時的な分析観点や分析結果を、自分や組織好みにカスタマイズしながら、定点観測するための手段」としての良さも残るだろう、と加えておきます。
ただし探索的データ分析としてのTableauやBIは、ちょっと良く分からないですね。自分のようなTableauユーザーは楽しめますが、Tableauの意義や魅力としては弱くなる気がします。
ということで、2025年8月時点での「生成AI時代のTableauユーザーの仕事」を考えてみました。また考えを改めたり、話せる事例や見た公開事例が出てきたら、その時にまた書いてみます。
質問などありましたら、XかLinkedinまでお願いします。それでは!