top of page

Tableau実践問題集 #TableauChallenge を作りました。

ワーキングメモリと認知負荷

お久しぶりです。前回の記事から2か月ほど空いてしまいましたね。

今回は脳科学的な要素も取り入れつつ「なぜ認知的負荷を小さくすることが重要か」について書いていきます。


このシリーズの想定ユーザーは以下の方々です。

  • データ可視化ツールには慣れてきたが、何をどう可視化したらいいか分からない

  • いまひとつ自分の可視化がイケてない気がする

  • 可視化のプロセスが分からない

参考書を以下に挙げます。

日本語版ありました)


このシリーズで使用したTableau Workbookは以下からダウンロードできます。

 

はじめに

前回は認知的負荷について書きました。これは「相手に一度に(短時間で)処理させる情報量」でした。

この認知的負荷を小さくするために、Clutterを減らしていきましょう、というお話をしました。

ここで、Clutterは以下のようなものでした。

  • 過剰または無関係な認知的負荷を作り出すもの

  • 何の理解も促さないビジュアル要素


前回では「認知的負荷を小さくするためには、理解を妨げる不必要なものを取り除くことが大切」ということを解説しました。

今回はもう少し掘り下げて「なぜ認知的負荷を小さくすることが重要なのか」について書いていきます。


認知的負荷は人間の情報処理、記憶能力、記憶方法に密接にかかわっています。

したがって、この3点について最初に理解する必要があります。


ということで、まずは情報処理と記憶についてお話します。

 

3種類の記憶

人が何かを視覚するとき、目を通して入ってくる情報は脳で処理されているので、

人は脳でモノを見ていますよね、という話です。


ここで脳が情報を処理する際、その長さや保存期間の大小はあれど、その情報は「記憶」されます。

Storytelling with Dataでは、その「記憶」のされ方を以下の三種類に分類して解説しています。

  1. 映像記憶 (Iconic Memory)

  2. 短期記憶 (Short-term Memory)

  3. 長期記憶 (Long-term Memory)

それぞれについて簡単な解説を入れます。

 

映像記憶

この記憶方法は「記憶」と言いながら、殆ど脳の記憶能力を必要としません。

Iconic Memoryは「何を見ているか」を一瞬で判断するための記憶能力です。

例えば以下の図で「いま数字の羅列を見ているな」という認識を一瞬でしているだけの記憶タイプです。


この記憶はほぼ無意識で行われ、かつ一瞬で失われます。

したがって、ある意味では「脳に優しい」記憶方法です。

(この「脳に優しい」が重要なポイントになってきますが、それは後程)

 

短期記憶

この記憶方法では、ある目的のために、脳に情報を(短期間)保存します。

例えば先ほどの図で「8の個数を数える」というタスクのために「数え上げている8の個数を記憶する」場合、それは短期記憶を使用しています。


ここで実際に8の個数を数えようとすると、結構大変ですよね。

なぜなら、8の個数を数えるプロセスには

  1. 見ている数字が8かどうか判断する

  2. もし8なら、いま短期記憶にとどめている「累計の8の個数」に1個追加し、情報を更新する

  3. 同時に「累計の8の個数」を短期記憶にとどめ続ける

  4. 次の数字を見る作業に入る(最初のタスクに戻る)

上記4つのタスクがあり、それぞれについて脳のリソース(短期記憶とワーキングメモリ)を使用しなければならないからです。


この「ワーキングメモリ」には後で戻ってきますが、まずは3番目の記憶方法について述べます。

端的に言えば、ワーキングメモリは一時的に情報を保管する(そして忘れる)ための記憶能力です。

 

長期記憶

情報が短期記憶を離れるとき、その情報は忘れられるか、長期記憶に保存されます。

長期記憶は、長い年月をかけて蓄積される、知識の引き出し/図書館のようなものです。

Sotyrtelling wIth Dataでは、この記憶は言語的記憶と、視覚的記憶の集合体であり、言葉または視覚的イメージにより引き出される、思いだされると説明されています。




先の数字の羅列の例では、あれ単体ではメッセージ性がないため、短期記憶を離れた後は忘れ去られます。

一方で、データ可視化に携わっている方々にとっては、あの数字の羅列の図は「見慣れたもの(長期記憶に保管されており、あの羅列の図によって引き起こされた記憶)」であったと思います。


それが何故かというと、あの数字の羅列を見る際には、本にせよプレゼンテーションにせよ「言語的情報」が伴っていたからです。


この長期記憶については後々「データストーリーテリング」について書く際にも取り上げますが、要点だけ述べると、この長期記憶に情報を留めてもらう(情報を無意識的にとどめてもらう)ためには、言葉(Story)と視覚(Data Visualization)のコラボレーションが必要不可欠ということです。

 

ワーキングメモリと認知的負荷

さて、今回のテーマは「なぜ認知的負荷を小さくすることが重要なのか」でした。

この「認知的負荷」は短期記憶に蓄えられた情報を元にして思考、判断をする「ワーキングメモリ」に密接に関わっています。


ということで、ワーキングメモリについてもう少し見てみましょう。

こちらの参考書によると、ワーキングメモリは以下で定義されています。

ワーキング メモリ とは、 情報 を 処理 する 能力 で ある。 もっと 正確 に いえ ば、 意識 し て 情報 を 処理 する こと。
意識 する とは、 その 情報 を 頭 の なか に 置く こと だ。それ に 注意 を 払い、 頭 の なか で それ に スポットライト を あて て 集中 し たり、 その 情報 に関する 決断 を くだし たり する こと だ。 と 同時に、 その あいだ は ほか の こと に関して は 無視 を 決め込む。
処理 する とは、 その 情報 を 操作 し、 その 情報 に 取り組み、 その 情報 で 計算 を し、 その 情報 を 扱い やすく 変える こと を 意味 する。

人間がデータ可視化を見る際、ワーキングメモリをフル活用して「何を見ればいいのか」「何を読み取ればいいのか」「この情報を基にして、次なにをすればいいのか」というような事項について、情報を「意識して処理」しています。


この「意識する」という点は、上述のように

  • 情報を頭の中に置くこと

  • 情報の取捨選択をすること

  • 情報に関する決断を下したりすること

の3点で成り立っています。


情報量が多すぎる場合を考えてみましょう。

膨大な情報それぞれに対して「意識する」プロセスが行われますが、人間のワーキングメモリのリソースは有限なので、端的に言えば頭がパンクします。


この場合、上記3点がどうなるかと言うと、思いつく例を挙げれば

  • 情報を頭の中に置くこと → 覚えてられない

  • 情報の取捨選択をすること → 取捨選択の度にリソース、エネルギーが使われる

  • 情報に関する決断を下したりすること → 決断項目が多すぎる、重要事項により多くのリソースを割けない

というような状況になります。


類推としては、たとえばコンピュータのメモリ量に対して大きすぎる情報を扱う場合、(一概には言えませんが)コンピュータは動作が遅くなったり、フリーズしてしまうことがありますよね。

人間の脳も同じようなことが起きる、というような感じです。


また「処理する」という点についても同様で、情報が扱いやすい形、分かりやすい形でなかった場合、この「処理」に余分のエネルギー、リソースを使用します。


データ可視化の目的は「効率的な情報伝達」と「データ理解に基づく意思決定支援」なので、より情報を「意識して処理」しやすい形、つまりワーキングメモリが働きやすい形に可視化を設計・デザインすることが重要になります。


この「意識して処理」しやすい形のための大きな要素が「認知的負荷を小さくすること」です。

 

なぜ認知的負荷を小さくすることが重要なのか

ここまでの話の要点をまとめ、最初の問い「なぜ認知的負荷を小さくすることが重要なのか」への答えを明記します。


まず最初に、人間には3種類の記憶があることを説明しました。

  1. 映像記憶

  2. 短期記憶

  3. 長期個億

ここでは特に映像記憶と短期記憶について述べます。

映像記憶は、殆ど脳の記憶能力を必要としない、「何を見ているか」を一瞬で判断するための記憶能力でした。

短期記憶は、脳に情報を短期間保存する記憶領域でした。この情報を基にして、ワーキングメモリが「何を見ればいいのか」「何を読み取ればいいのか」「この情報を基にして、次なにをすればいいのか」というような事項について、情報を「意識して処理」します。


認知的負荷というのは、ワーキングメモリに対する負荷です。

視覚的情報がワーキングメモリによる「意識して処理」するプロセスを多く必要とするとき、その可視化は「認知的負荷が高い」と言えます。


認知的負荷が高い時、情報を分析する、情報を基にした意思決定をするためのワーキングメモリが不足してしまう、または余分エネルギーを必要としてしまいます。

その結果、データ可視化の目的である「効率的な情報伝達」と「データ理解に基づく意思決定支援」が達成できなくなります


したがって「なぜ認知的負荷を小さくすることが重要なのか」の答えは「認知的負荷を小さくしないと脳がパンクし、データ可視化による情報伝達やその先のアクション等のアウトプットの質が落ちるから」と、自分は考えます。


ということで、脳・ワーキングメモリに優しい可視化が作っていきましょう、ということになります。

 

ワーキングメモリを働かせないための無意識的視覚情報

上述のように、認知的負荷を小さくするためには、ワーキングメモリをいかに働かせない可視化を作るかということになってきます。


そのためには、映像記憶の活用が重要になってきます。

つまり「ほぼ無意識に理解できる情報」を与えてあげることにより、情報が短期記憶ではなく、映像記憶で処理できるように設計してあげる必要があります。


ここで「無意識的視覚情報(Preattentive Attributes)」が大きな意味を持ちます。


無意識的情報については、このブログシリーズでは大きく取り上げません。

なぜなら、これについて書かれた本やブログ記事は大量にありますし、可視化の本でこの内容を取りあげていない本は無いんじゃないかなと思うからです。


ただ一例として、数字の羅列について8を数えるというタスクについては、以下の図では上図が短期記憶を要求するのに対し、下図は映像記憶のみで済みます。


映像記憶だけで、同じ情報が伝えられます。8の数は7個です。


数字の羅列に限らず、過去このシリーズで取り上げた、ありとあらゆる「認知的負荷を減らす試み」についても同様です。


認知的負荷を小さくすることは

  • ワーキングメモリが処理しやすい形に情報を加工する

  • 短期記憶ではなく、映像記憶で処理できる形に情報を加工する

ことだと考えています。


そのための無意識的視覚情報であり、見やすいデザインであり、適切なチャートタイプの選択です。

 

最後に

「認知的負荷を小さくすることは、単に見やすくすることではない」ということをお伝えしたかった回でした。

認知的負荷は、データ可視化によるアウトプット(情報伝達、意思決定)の質、スピードに対してクリティカルな要素だと思っています。


一方で、今回の記事は参考書を自分なりに解釈した結果でもあるので、議論の余地は大いにあると思います。

認知的負荷という言葉は少しずつ広まってきましたが、なぜ必要なのか、具体的に何を意識しながら設計するべきなのか、この2点に対する考察をした回でした。


ご質問等はTwitterまたはLinkedinまでよろしくお願いします。それでは。

bottom of page