読書ノート: イシューからはじめよ 知的生産の「シンプルな本質」

イシューからはじめよ 知的生産の「シンプルな本質」を読みました。


データ可視化に携わる方にとって示唆的な内容を多く含んでいましたので、読書ノートの形でまとめて見ようと思います。

(全5章までの0章、1章をここでは扱います)


本書はおそらく想定読者がデータ分析者というよりはビジネスパーソン、意思決定者ですが、敢えてBI/Tableauエンジニアの視点、文脈から本書を理解してみようと思います。


本記事は書籍全体の紹介または書評では無いことをご留意ください。

またデータ可視化で意思決定をサポートしている方々、データ文化の醸成を支援されている方は本書の一読をオススメします。良書だと思います。

価値あるデータ可視化とは何か

まず(以降の議論の背景知識として)「データ可視化がなぜ重要か」について、自分の考えに軽く触れます。

こちらの記事でまとめたように「『見てすぐに分かる』形でのOODAループ高速実施」が支援できることに、データ可視化やダッシュボード開発の重要性、意義があると思っています。


しかし意義あること自体は「役に立つ、価値を生む」ことを保証しません。

端的に言えば「見て分かったところで、その先に実施される意思決定や行動が意味のない、価値のない」場合はいくらでもあり、それを支援したところで…ということです。


ここでビジュアル分析のサイクルをおさらいしましょう。

データ可視化に携わる者は、データ可視化それ自体(例えば図中のGet Data, Choose Visual Mapping, View Data) だけを担うのではなく、可視化が何を目的としている(Task)のか、何を伝える(Develop Insight)のか、可視化を見た結果何をするべきか(Act)まで考慮/確認しながら可視化を行うことが、本質的には望まれていると思います。

したがって価値あるデータ可視化を提供したいのであれば、データ可視化の前後の文脈を考えなければいけません。


本書では「価値ある仕事」を以下の2軸で定義しています。

  • イシュー度:この問題(仕事)に答えを出す必要性の高さ

  • 解の質:イシューに対してどこまで明確に答えを出せているか

データ可視化はこの図で言うところの「解の質」について取り組みますが「イシュー度」はデータ可視化それ自体から独立した内容です。


例えば、熟練のデータ分析官やデータ可視化エンジニアは、手持ちのデータから素晴らしいデータ可視化や分析を作成することが出来ると思います。

一方で、その分析対象が重要なものかどうかはデータではなく状況に依拠します。


つまり「優れたデータ可視化を提供する」ためには

  • 「スキル自体を磨くこと=解の質を高める」

  • 「分析対象の必要性を確認する=イシュー度が高いことを確認する」

この2点が必要になってきます。

データ可視化の犬の道

本書では「価値ある仕事」へ至るまでのアンチパターンとして、以下の「犬の道」を挙げています。

Icon Credit: Dog by Hey Rabbit from the Noun Project


この犬の道は「労働量によって仕事の価値を上げよう」というアプローチです。

可視化の文脈で例えるなら「まずはデータを何でもかんでも”見える化”して、データ可視化と活用が浸透することを祈りつつ、レポートファクトリー化しながら”可視化作業のみ”続ける」ような状態でしょうか。


筆者は次のように述べます。

世の中にある「問題かもしれない」と言われていることのほとんどは、実はビジネス・研究上で本当に取り組む必要のある問題ではない。 世の中で「問題かもしれない」と言われていることの総数を100とすれば、今、この局面で本当に白黒をはっきりさせるべき問題はせいぜい2つか3つくらいだ。

これは肌感としても確かにそうで(特に昨今の”DX”潮流…可視化、デジタル化自体をゴールにしてしまうこともあり)この「犬の道」に陥るケースは得てしてあるものと思います。

作成したデータ可視化数や関係者数をKPIに置いてしまう場合も犬の道かもしれませんね。よく聞く話ではありますが…


役に立つ、価値ある可視化を提供するためには、そもそも取り組む対象のイシュー度が高くないといけない、イシュー度を正しく認識しないといけない、というのは念頭に置いて損はないように思います。

余談:イシュー度の高くない問題にも多少は取り組んだ方が良い理由

とはいえ「イシュー度の低い問題に全く取り組まない」という姿勢は推奨されないように思います(し、本書でもその旨は言及されていないはず…あくまでも「犬の道」に踏み込むなというだけで)。


そう考える理由を端的に述べますと、大きく以下3点かなと思います。

  • 関係者との信頼構築のため

  • クイックな可視化のポテンシャル実演のため

  • イシュー度の高い問題に取り組むための経験値獲得のため

個別に見ることはしませんが、意図的にイシュー度の低い問題に取り組むことのメリットもあり、重要なのは無意識に「犬の道」を突き進まないよう自省することと思います、ということで。

あとはSmall Win, Quick Winを重ねる意味もありそうですね。

イシューを見極める

「犬の道」を避けるためには、もちろん「イシューの見極め」が重要になり、それは本書で以下のように定義されています。

「何に答えを出す必要があるのか」という議論からはじめ、「そのためには何を明らかにする必要があるのか」という分析を設計していく。

(探索的データ分析としてのデータ可視化は置いておいて)「何がTaskか」「何を可視化する必要があるのか」という議論、設計は、データ可視化をされている方であれば馴染み深い内容と思います。

と言いつつも、おさらい的に、本書で説明されるこのプロセスの意義を見ていきましょう。

「これは何に答えを出すためのものなのか」というイシューを明確にしてから問題に取り組まなければあとから必ず混乱が発生し、目的意識がブレて多くのムダが発生する。

これは確かにそうで、経験からも上手くいく可視化プロジェクトは

  • 「これは何を知るためのもので」

  • 「どういう恩恵が得られて」

  • 「何を明らかにする、可視化するのか」

が関係者間で明確になっているケースが多いように思います(し、自分も作業しやすかったです)。


意識的に「これは探索的データ分析なので、イシューの元に可視化を作成していない」という場合を除き、基本的にはイシューを「言語化」してから可視化に着手した方が良いように思います。


この「言語化」についても本書は言及があります。

イシューが見え、それに対する仮説を立てたら、次にそれを言葉に落とす。 (中略) なぜか?それはイシューを言葉で表現することではじめて「自分がそのイシューをどのようにとらえているのか」「何と何についての分岐点をはっきりさせようとしているのか」ということが明確になるからだ。 言葉で表現しないと、自分だけでなくチームの中でも誤解が生まれ、それが結果として大きなズレやムダを生む。

可視化作成者は自身のためにも、提供先との認識確認のためにも、想定イシューを言語化し共有することが肝要です。

特にこのプロセスは初期の初期に、議論を重ねながら、お互いが同じ方向を向いて同じものを見ていることを確信できるまで実施した方が良いように思います。

(更に言えば、定期的に言語化されたイシューを確認しても良いかもですね)


誤解によるズレやムダは致命的なものにもなり得ます。

「作成過程での受益者(ユーザー)とのコミュニケーションを密に取り、認識齟齬を恐れ、生じていないことを確認する」ことを自分は大事にし、それを度々お伝えしているのですが、同じ哲学の下だと思いました。


イシューの言語化は必ず踏んでおいた方が良いですね。

「自分ごと」にすることと一次情報の重要性

ところでイシューを見極めるために、どのようにして手がかりを得れば良いのでしょうか。

いわゆる「ドメイン・エキスパート」の方であれば、自身の膨大な知見と経験値から、何がイシューで何を明らかにするべきかの目途はつくかもしれません。


そうでない人間はどのようにするべきでしょうか。その点について本書は以下を導入として述べています。

では、手がかりを得るためにはどうしたらよいのか。それは、取り組んでいるテーマ・対象について「考えるための材料をざっくりと得る」ことだ。 つまり、時間をかけ過ぎずに大枠の情報を集め、対象の実態についての肌感覚を持つ。ここでは細かい数字よりも全体としての流れ・構造に着目する。

また上記を達成するためのコツとして以下を挙げています。

  1. 一次情報に触れる

  2. 基本情報をスキャンする

  3. 集めすぎない、知り過ぎない


特に一次情報に触れておきたいと思います。

一次情報というのは端的に言えば「自分が直接体験することで得た情報」です。いわゆる現場の声(ただし二次情報的になっていないかは注意)もこちらに該当すると思います。


情報が集約されている読み物(二次情報)や、現場を統括するマネジメントの方からのお話は、確かに情報収集において一見効率が良いです。

しかし取り組む対象についての理解の解像度を上げる際、何のフィルターも通さない一次情報に触れることが重要になってきます。

データ可視化の文脈で言えば、管理層や中間者だけでなく、エンドユーザーからのヒアリングをするべき、という内容になってきます。

(漫然としたヒアリングだけでなく、実際の業務や作成する可視化の想定使用例を見せてもらう、現場の問題感を教えてもらうなど、より現場感のある内容を聞くと良いと思います)


一次情報に触れるということは「自分ごとにする」という姿勢にも共通することであり、この姿勢がイシューに対する理解の解像度を上げ、作成するデータ可視化の質と価値を向上させます。


いま自分が誰とコミュニケーションをとっているか、それは一次情報かを問い直してみると良いかもしれません。

まとめ

ということで、1章までの内容をデータ可視化の文脈から理解してみました。

以下ここまでの要点です。

  • 価値ある仕事は「イシュー度」と「解の質」で決まり、価値あるデータ可視化を提供するのであれば、問題のイシュー度(文脈)を考えなければいけない。

  • 労働量で価値を出そうとすると「犬の道」に踏み込んでしまう。意識的に取り組む課題のイシュー度を考えなければならない。

  • 「何がTaskか」「何を可視化する必要があるのか」というイシューの見極めを行い、言語化することにより可視化プロジェクトはより成功しやすくなる。

  • 一次情報に触れ、問題の解像度を上げることが重要。


「組立工のように、流れてきた要件通りのものを作成する」ことだけを行う方でない限り、本書の内容は反芻しても良いものと思います。

本記事では0章と1章の内容を部分的に紹介いたしましたが、取り上げた章の残りの部分も、残りの章も示唆的かつ実践的な内容に富んでいますので、ぜひご一読ください。とてもいい本でした。


ちなみに他のオススメ本は以下の記事にまとめてありますので、ご参考になれば幸いです。

Tableau Userにオススメしたいもの(Tableau Study Materials)


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