最終更新: 2023/05/03
名著です。ぜひ読みましょう。データ可視化を体系的かつ実践的にまとめている本ですので、データ可視化の書籍などを多く読んでいない方への入門には特に良いと思いました。
ただし経験者に向かないということはなく、特に書籍内の「考え方」についての部分は、経験的かつ感覚的に理解しているデータ可視化のあれこれを言語化してくれるように思いました。
また、この本をベースすれば良いデータ可視化研修ができるように思います。データ可視化の教育活動に携わっている方にもオススメです。
この本の何が良いのか、また何を取り扱っているかについてお話しするため、まずはこの書籍の構成を見てみましょう。
以下の4パート、全9章で構成されています(章タイトルを一部簡略化して記載しています)。
理解する
データ可視化の略史
視覚の科学
作成する
データ可視化の4象限
チャート改善のフレームワーク
磨く
印象付けるための磨き方
説得するための磨き方
説得か操作か:データ可視化の倫理
提示する・実践する
良いチャートを目と心に届ける
良いチャートを見る(そして作る)実践法
データ可視化を体系的に「理解」し、実際に「作成」するにあたっての考え方を示し、作成したものを「磨く」方法を提示し、最後に作成し磨かれたデータ可視化を「提示」する方法、および見て作ることを「実践」する方法について述べる構成です。
データ可視化における基本的事項と考え方は、この書籍を読めば習得できると思います。
特にパート3の「磨く」は実践的にデータ可視化を効果的なものにするための方法が多く記載されています。
本記事では自分の読書メモとして、特に気に入った部分抜き出して書いてみようと思います。
ちなみに、こちらでも連載として書籍の中身を一部知ることが可能です。
ただし個人的には書籍を買った方が包括的なので良いと思いました。
良い可視化とは何か
書籍の冒頭で、いきなりこの話題から入ります。「良い可視化」とは何でしょうか?例えば以下の可視化は「良い可視化」でしょうか?
(TableauのSample Super Storeデータから作成)
データ可視化のベストプラクティスに照らせば、まあ大きく失敗していないのでは無いでしょうか。
いわゆる視覚的負荷が少ない作りになっていますし、不要な罫線なども消しています。色遣いに統一感もあり、いわゆる「見やすい」データ可視化にはなっていると思います。
さて、この可視化は「良い可視化」でしょうか?
この問いに答えるにあたり重要な観点があります。この可視化は何のために作成されたのでしょうか?
「売上は概ね増加傾向にある」ことを示すためでしょうか?
「第4四半期に売上が特に増加する」ことを示すためでしょうか?
「2021年の第4四半期は対前年比で横ばいだが、直近2年間の対前年比は増加している」ことを示すためでしょうか?
文脈が分からなければ、データ可視化が目的に沿ったものかどうかを判断できません。
つまり文脈が分からなければ、可視化自体の良し悪しは判断できません。判断できるのは見た目の良し悪しだけです。
ここでいう文脈とは以下のような情報を指します。
誰が見るのか
見る人は何を求めているのか
見る人は何を必要としているのか
作者は何を伝えたいのか
作者は何を示すことができるのか
作者は何を見せるべきか
本書は以下のように「良い可視化」を定義しています。
このマトリクスに照らし合わせれば、「良い可視化」とは以下の要素を満たしている可視化であると言えます。
デザインが完成されている
正しく理解された目的に沿っている
データ可視化のデザインだけ整える、またTableauに関して言えば機能的なダッシュボードを作るための技能のみを磨いても、良い可視化が作れるとは限らないことを示唆しています。
この書籍をオススメしたい理由の一つが、文脈を認識し、文脈に沿ったデータ可視化を作成するための手法と考え方に多くを割いていることです。
本記事でもその部分を中心に紹介できればと思います。
2つの問いから導かれる4つのデータ可視化のタイプ
良い可視化の作成にはデザイン上の技能だけではなく、文脈を正しく認識し反映することが重要であると上記で述べました。
文脈を認識するために、作成する可視化の性質と目的に関する以下2つの問いについて考えることが必要です。
情報は「概念的」か、それとも「データ主導」か
自分は「宣言」しているのか、それとも「探求」しているのか
1つめの問いは、概念や定性的な情報を可視化するのか、それともデータを可視化するのか、ということです。自分が可視化に用いる材料の抽象度に対する問いです。
2つめの問いは、自分が何をしているか/何をするかに関する問いです。作成する可視化をもとに、自分は何かを伝えたいのか、何かを探求したい/させたいのかについて考えます。
この2つの問いに従って、データ可視化の種類を以下のマトリクスに落とし込むことが出来ます。
(注:本書の内容を簡素化して作成しました。書籍中にはより詳細に記述されているので、ぜひ読んで確認してみてください)
自分が作成するデータ可視化はどの象限に属するべきなのか理解できれば、あとは目的に沿って必要な形に落とし込んで行けばいいと思います。
Tableauユーザー向けにお話しすると、Tableauで作るデータ可視化は概ね「日々のデータ可視化」か「視覚的発見」の領域に属すると思います。
自分が作る可視化やダッシュボードはどちらの領域に属するのかを見極めれば、大きく外したデータ可視化にはならないと思います。
例えば「日々のデータ可視化」に使いたい文脈なのに、探求型のダッシュボードを作成することは必ずしも本質的とは言えないのかなと。
逆に「視覚的発見」に使いたいのであれば、インタラクティブ性などを用いて、データを探求できるダッシュボード設計が必要になってくると思います。単純なデータ可視化の羅列では目的に合いませんね。
可視化の文脈を検討する際は、上記のマトリクスを参考にすると良いと思います。
良い可視化を作るための方法
データ可視化を作成する際に、文脈の理解が大事であり、また文脈を考えるうえで参考になるマトリクスを紹介しました。
ここでは良い可視化を作るための方法について述べます。本書では以下のステップが紹介されています。
準備
話す・聞く
スケッチ
プロトタイプ
書籍では各ステップの実施方法などについて詳細かつ実践的な記載があります。
ここでは、個人的に印象に残った内容のうち一部を簡単にまとめます。
まずは基本的な情報を書き出す
言ってみれば、思考のプロトタイプ作成です。
以下の内容を書き出してみましょう。
可視化のタイトル
誰のためのものか
どのような場で使用するか
情報は「概念的」か、それとも「データ主導」か
「宣言」のためか、それとも「探求」のためか
「良いチャートのマトリクス」のどこを目指すべきか
作成するデータ可視化のキーワードなども書き出すと良いと思います。
これから作成する可視化の「本筋」をここで決定します。
(以降のプロセスの中で、別の本筋を見つけるかもしれませんが)
具体的な問いについて他者に話す
作成した可視化が自分以外のためにも使われる場合は、他者と作成したいデータ可視化について会話すると良いと思います。
自分が設定した問題や仮説の妥当性の確認、行おうとしている可視化アプローチの妥当性などを、客観的に見てもらうことは有益だと思います。
本書では、以下3つの問いに対する答えを持って、他社と会話することを推奨しています。
自分は何に取り組んでいるのか(問題や仮説)
自分は何を伝えようとしているのか、または見せようとしているのか(データ可視化の主題)
なぜか(作成するデータ可視化の重要性)
この後にスケッチやプロトタイプ作成などが行われるわけですが、この過程の中で適切なチャートの選択などは行われるとはいえ、データ可視化のデザイン自体には大きな焦点が当てられていません。
このプロセスの目的については、以下のように述べられています(p.110)。
このプロセスの目的は...(中略)...あなたのアイデアとメッセージを洗練させ、ベストなコンテクストを構築することであり、「良いチャートのマトリックス」の中で、可能な限り右上にあなた自身を押し上げることだ。
データ可視化のアイデアとメッセージの洗練に注力するのはなぜか。
本文中の以下を引用します(p.110)。
良いチャートを作成する上で最も困難なのは、チャートを美しくすることではなく、アイデアを視覚化することだ。
Tableauなどのデータ可視化ソフトウェアが一般的なものとなった今、デザインの良い可視化を作ることは難しくありません。
一方で、良いデータ可視化を作成する上で、データ可視化ソフトウェアには出来ないことがあります。文脈を理解し、有意義な形で設定することです。
最後に以下を本文から引用します(p.82)。
プログラムはデータを視覚化し、人はアイデアを視覚化するのだ。
「データ可視化」はひどい言葉だ
いきなり何の話だという感じですね。
本記事の最後に、「おわりに」から自分が特に好んだ箇所をいくつか引用します(p.232)。
「データビジュアリゼーション」とはある意味、ひどい言葉だ。良いチャートの概念を機械的な手順にし、作成することそのものよりも、作成に必要なツールや方法論を想起させる。
この言葉はまた、データビズの世界で結果よりプロセスにこだわるようになっていることを表している。現在でも、データビズの教育で注力されているのは、「正しい」方法で行うことや、「間違った」方法で行った時にそれを見極めること、正しい形式を選択すること、いつどんな色を使うかなどだ。チャートの批評は、テクニックやどう作られ、どう見えるかに終始している。
データは、現象とそれについてのあなたのアイデアの仲介役に過ぎない。ビジュアライゼーションは単なる手段であり、ただの統計図よりはるかに多くを伝達するアイデアを、その仲介者を使って伝えるものだ。 良いチャートを作るということは、ある真実を得て、その真実を人々に感じてもらうことだ。それまで見えなかったものを見て、考え方を変え、行動を起こすよう人々を動かすことだ。
この読書ノートを書いている折、以下のイベントに登壇させて頂く機会がありました。
お話した内容は、共催者の三好淳一さんのnote記事にまとめられています。
(こちらの記事、読んで広めた方が良いと心から思います。名記事です。)
こちらのnote記事のなかで、特に皆さんにお伝えしたい箇所があります。
(自分の言葉で要約しています、ご容赦ください)
データ可視化は課題解決することの手段の一つであることを認識することが非常に重要。
データ可視化の専門家としての職種は、本質的には「データを使い、意思決定や組織を動かすコミュニケーション設計・実装をする職種」
上記の書籍からの引用箇所も、三好さんのnote記事からの引用箇所も、本質は同じ内容だと思います。
データ可視化は手段であり、データ可視化を使って人がすることはアイデアの視覚化であり、そのアイデアから人の考え方や行動に影響を与えることだと思います。
データ可視化ではなく、ビジュアル思考とビジュアルコミュニケーションに目を向けてみてください。
データ可視化ツールが進化しても、文脈を理解し、主要なアイデアを見つけ、説得力ある形で可視化するプロセスは代替できないと思います。伸ばすならこのスキルです。
最後に
本書の内容のうち、一部を取りあげてご紹介しました。
この記事で取り扱わなかったものの、大いに参考になる内容がまだまだ含まれています。
ぜひ読んでみてください。この本はデータ可視化の本ではなく、データを使ったコミュニケーションに関する本ですので、データを使って会話する機会がある方は、読んで損はないと思います。
ご質問等はTwitterまたはLinkedinまでよろしくお願いします。それでは。
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